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親子の時間と関わりを。「遊びの力」で関係性を育む

18歳以下のすべての子どもと保護者が無料で利用できる児童館。運営母体や規模はさまざまですが、職員たちはそれぞれに子どもたちと向き合い、想いを持って居場所と遊びを提供しています。香川県の大型児童館「さぬきこどもの国」に勤める尾松 佳織は「大型だからこその役割、支援のかたちがある」と語ります。


一見さんが多いからこそ、ひとりひとりの気持ちをキャッチする


5fe40995-7e5c9f30▲さぬきこどもの国(香川県高松市)職員の尾松 佳織。わくわく児童館の前で


2020年現在、公営・民営合わせて全国に約4,500カ所ある児童館。そのなかで、「大型児童館」に分類される施設は、全国に19カ所あります。


香川県高松市の「さぬきこどもの国」もそのひとつ。高松空港に隣接して東西に伸びる敷地に、芝生や花畑、大型遊具エリア、航空機の展示エリアや、サイクリングロードなどが広がっています。中心に位置する児童館には、スペースシアターや劇場、美術・科学・音楽の工房、乳幼児が安心して遊べる木のおもちゃの部屋などが整っています。香川県内では唯一となる大型児童館です。


職員の尾松 佳織は、さぬきこどもの国を「あらゆる遊びがギュッと詰まった場所」と表現します。


ー尾松 「工作をしたい、からだを動かしたい、どんな気持ちにも応えられるし、何かしらイベントに参加できて、ひとりでも家族いっしょでも楽しめる。子どもにとって、来ればやりたいことが見つかる場所なんじゃないかな。


うどん県らしく例えると、一番の行きつけのうどん屋は近所の小型児童館だけど、気分を変えたくてトッピングの豊富な大型児童館に来る、そんな存在でいいんじゃないかなと思っています」


さぬきこどもの国の来館者は年間約60万人。訪れる人数が多く、一度しか訪れない子どもも多いからこそ、尾松は心がけていることがあると言います。


ー尾松 「私たちスタッフが介入して、ひとりひとりの求める遊びを提供できるところに、児童館の価値があると思うんです。どこから来たのかも、お名前も知らない。でもその子が手にしている道具や作りかけている工作、動作とともに変わる表情から想像して、言葉をかけながら何をしたいのかキャッチしています。


関わらなければ通り過ぎてしまうからこそ、そのいっときを楽しんでもらえるように。参加者が多くピンポイントに向き合うのが難しいときも、なるべくみんなに目を合わせたり、楽しくなさそうな子を見極めて帰りに声をかけてみたり、できる範囲で取り組んでいます」


児童館の知識ゼロからスタート。今では遊びのスペシャリストに


5fe40887-33c47caa▲若手時代の尾松。子育て支援プログラムで

尾松がさぬきこどもの国に初めて足を踏み入れたのは13年前のこと。短大卒業後、子どものころからの夢だった保育士として働いていましたが、数年で離職。知人を通じてさぬきこどもの国の求人募集を知り、面接を受けました。


今では児童館職員として高い専門性を持つ尾松ですが、当時は児童館のことをまるで知らず、「子どもに関する何かができるところなんだろうな、くらいの認識でした」と笑います。


ー尾松「面接のとき、子どもとふれあい遊びをしたり、あそびうたを歌ったりするお仕事と聞いたんです。なので、あまり保育園と変わらないのかなとイメージしていました。働きだしたら全然違ったんですけどね」


大型児童館はイベントの参加人数が多く、職員にはパフォーマンス力が求められます。「今では誰にも信じてもらえないのですが、大勢の前でしゃべると記憶が飛ぶくらい極度の人見知りだった」と語る尾松にとって、40〜50組の親子の前であそびうたを歌う初仕事はとても荷の重いものでした。


当初はプログラムを失敗なくこなすことに精一杯で、その場にいる子どもたちを気にかけることができなかったと言います。このままではいけないと思いつつも、なかなか改善できない日々。そんな尾松が変わったのは、保護者からの言葉とあそびうたの研修会で出会った講師の姿がきっかけでした。


ー尾松 「私が担当していた子育て支援プログラムに、毎週のように来てくれて顔なじみになった保護者の方がいたんです。その方が、“うちの子、家でかおちゃん行く、かおちゃん行くってせがむんですよ”って教えてくださって。自分が求められていることを痛切に感じて、求めて来てくれる子どもたちが楽しめることを、もっとやりたいって思うようになりました。


ちょうど同時期に参加した、あそびうたの研修会も大きなきっかけになりました。自分が教えてもらう側になったとき、講師の方が楽しそうにパフォーマンスをしていると、自分も楽しく参加できることに気がついたんです」


尾松は、決まったプログラムをこなすだけではなく、やってみたいことにトライするようになっていきます。新しいことに挑戦すると、自然と子どもたちの反応をよく観察するようになり、徐々に視野も広がっていきました。


こうして尾松は、子どもたちが求めることを汲み取って遊びを提案していく、遊びのスペシャリストとしての道を歩み始めたのでした。


東京の育成財団への出向で知った、児童館の多様性


5fe407be-4e998492▲児童健全育成推進財団に出向していた尾松。事務局として研修会なども企画

児童館職員について、「うどん屋に例えるなら、君はいつものかけうどん小、ぬるめね、って言える人。いつもそこにいて、子どもたちを見守り、寄り添う存在」と語る尾松。「さぬきこどもの国」を訪れる子どもや保護者と向き合う一方で、県内児童館職員の研修会や、職員同士の連携促進も主要な仕事としてきました。


広報誌の制作では、自らの発案で直接県内の児童館まで取材に赴き、なかなか表に出てこない職員の想いを聞き取って記事に。県内のほぼすべての児童館を訪れたと言います。職員はみな熱い想いでそれぞれ良い取り組みをしているにも関わらず、児童館職員同士にすら知られていないこと、結果なかなか波及していかないことに問題意識を持っていたと言います。


そんな中、尾松は2018年からの1年間、希望して一般財団法人児童健全育成推進財団(以下、「育成財団」)に出向しました。「育成財団」は、児童館職員の研修や新たな遊びのプログラムの開発などを行っている組織です。


尾松が出向を希望したのは、全国の児童館がどんな取り組みをしているのか情報を集め、香川県内の児童館に伝えたいと考えたからです。


ー尾松 「全国には民間の児童館もたくさんあって、チャレンジングな仕事の仕方やその活気に刺激を受けました。男性や若い職員さんも多く、思っていた以上に児童館で働く人は多種多様で、子どもや遊びへのアプローチもさまざまであることを知りました。


同時に、香川の児童館の良さも見えてきました。ずっとそこにいると見えなくなってしまうものもあるので、機会をもらえた私が、うまく香川のみなさんに今持っている良さを伝えたいと思って帰ってきました。学ぶべき他県の事例を紹介したり、他県の職員と直接つないだりといった役割も担っていきたいです」


香川県は日本で一番面積の小さな県。研修会をする場合、大きな都道府県ではいくつかのブロックに分かれて開催するのが一般的ですが、香川県の場合には一堂に会する機会になります。尾松は、そうした研修会の企画などを通じて、県内の児童館同士、職員同士の連携を深めていきたいと考えています。


ー尾松 「お互いに取り組みを共有して学び合うことで、県内の児童館みんなで良くなっていく流れにしていきたい。連携することで大きな力になると思いますし、それが児童館内部に止まらず、世の中に向けた発信力の強化にもつながっていくと信じています」


児童館だからできる「遊びを通じた支援」のかたち


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▲大人気企画「親子忍者道場」での一幕。お父さんに前に出てきてもらうための声かけにもテクニックがあるという

尾松がこの仕事にやりがいを感じる瞬間はいくつもあると言いますが、そのひとつが、チームの仲間とともに考えた新しい遊びを子どもたちに提供できたときだと言います。長年あたためてきたネタを遊びとして昇華させることができると、「自分自身とてもワクワクするし、子どもたちにもそれが伝わって、満足度が上がっているように感じます」と尾松は嬉しそうに語ります。


そんな尾松が考案した遊びの中で、現在も大好評の企画となっているのが「親子忍者道場」です。親子のふれあいや関わりを軸に考えられたプログラムで、とくに子どもと遊ぶ機会が少ないお父さんと子どもが、思いっきり遊ぶことを意図して作られています。


たとえば「聞き耳の術」は、子ども忍者は目隠しをして、お父さん忍者が前に出ます。尾松からの「秋の食べ物といえば?」という質問に、お父さん忍者は大きな声で一斉に回答。お父さんたちの答えを子どもが聞き分けるという遊びで、これがとても盛り上がるのだそうです。


ー尾松 「お父さんは声が低いので、声を聞き分けるのが難しいんです。保護者の方も、恥ずかしがるのは最初だけで、結構みなさんすぐに本気になってくれるんですよ。


うちのお父さんってこんなに真剣に遊べる人なんだ!とか、負けてあんなに悔しがる姿を初めて見たとか、うちの子どもはこんな風に周りの子どもと関わっていけるようになったんだね、とか、家では見られないお互いの姿を認識する時間になったらいいなと思っています」


尾松は今後、こうした親子のふれあいを軸にした遊びにもっと取り組んでいきたいと考えています。とくに小学校高学年の親子を対象にしたプログラムの企画も開始。友達との遊びや塾、習いごとに時間が使われ、親子の時間は年齢が上がるとともに減っていくからこそ、児童館で共有できる時間を過ごしてほしいと語ります。


ー尾松 「遊具で遊ぶことはテーマパークでもできるけれど、人がいなければできない遊びは、児童館だからこそできること。さぬきこどもの国は車でなければ来られない立地なので、親子のふれあいは、ひとつ大きなテーマです。


“子育て支援”と言うと、何か悩みを聞いて答えるようなものを想像しがちですが、親子の関わる時間を提供することも支援なんじゃないかなと。年齢を問わず夢中にさせる力が、遊びにはあります。遊びを媒介として、親子が同じ時間をいろんな形で共有できるイベントを作っていきたいと思っています」


さぬきこどもの国はもちろん、県内児童館を含めた広い視野で、児童館にしかできないことは何かを考え、挑戦を続ける尾松。今後も尾松の、そして香川県の児童館から目が離せません。

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