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児童館は「地域のパワースポット」共に力を生み出す居場所に

新潟県立こども自然王国の梅田 広美(うめだ ひろみ)は、地域の人々と連携して歴史や伝統文化に触れる取り組みを多く行っています。地元の来館者が少なかったところから、児童館での地域の交流活動にも力を入れ、地元のこどもだけでなく大人たちも多く集う場所になった経緯にはどのような想いや取り組みがあったのでしょうか。



地域とのつながりを深め、地域の歴史・伝統文化に触れるイベントを企画


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▲ソトアソビソトゴハン&高柳ジンギスカン祭りの様子(左)。梅田が「自然王国で一緒にやりたいです!」と熱意を伝えて実現。/狐の夜祭りの様子(右)。地域で行われていた伝統的なお祭りを児童館を会場に開催


新潟県立こども自然王国(以下、自然王国)は、その名の通り豊かな自然の中で、キャンプ場や温泉、周辺の自然を活かしたカヌーや沢登りなど宿泊しながら遊びや体験を楽しむことができ、多くの人々が訪れる大型児童館です。


近年は自然王国の位置する新潟県柏崎市高柳町の名物である「ジンギスカン」を取り入れたイベント、地域に古くから伝わる「狐の夜祭り」の開催(複数会場の1つ)、しめ縄飾りをつくる「なわない」や笹団子づくりの体験プログラムなど、地域の歴史や文化に触れることができる多くの取り組みを行っています。地域とのつながりを大切に、中心となって取り組んできたのが、館長の梅田です。


「大型児童館には遠方から来てくださる方も多く、開館当初はむしろ地元の方の来館が少なかったんです。少子高齢化が進んでいく中で児童館が拠点となり、地域のお祭りや行事の会場となるなど、地元の方々が気軽に遊びに来て児童館がこどもや大人にとっても身近な居場所となれる取り組みを考えてきました。

アウトドア体験やキャンプ飯を楽しむ「ソトアソビソトゴハンイベント」は新たな試みの1つで、県内の方々と連携して自然王国を会場に開催し、こどもも大人も自然の中で全力で楽しみました。初めて自然王国に来館した方も多く、児童館を知ってもらえるきっかけにもなりました。

地域のこどもたちも家族と一緒に手伝いに来てくれたり、県内の大学の実習生が実践的に学びながらマンパワーとしても活躍したり、地元の方々が『児童館でこんなイベントを開催できる?』と相談に来たりすることも増えました」


プライベートでもさまざまなことに興味を持ち、なんでもチャレンジしてきた梅田。その姿勢は児童館の取り組みにも表れています。


館長として児童館の仕事に取り組むかたわら、新潟県児童館・児童クラブ連絡協議会の会長や、全国児童館連絡協議会の副会長を務め(※)、こどもを見守るNPOの立ち上げにも携わり、児童館と地域のより深い連携にも尽力しています。忙しくも、梅田は日々の取り組みについて楽しそうに語ります。


「現場でこどもと向き合って、プレイリーダーとして思いっきり遊んだり体験活動をしたりしている時間を大切にしたいです。大型児童館としては珍しく『放課後子ども教室』を併設していて、日常的に来館するこどもたちがいます。こどもたちが学校から帰ってくると、事務室の窓からお呼びがかかるんです。鬼ごっこはいつも鬼に指名され全力で走っています!」


※ 児童館連絡協議会…児童館同士のコミュニケーションを通して活動の推進・充実・発展を図り、児童の健全育成推進を目的とするネットワーク



「好きなことを活かして仕事をしたい」と、公務員から児童館職員に


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▲放課後子ども教室では、遊びながらこどもとのおしゃべりタイム。こどものやりたい!を一緒に楽しむ


梅田が児童館の存在を知ったのは、社会人になってからのこと。児童館に就職する前は、公務員として、生まれ育った高柳町の役場に勤めていました。


ある時、町の取り組みの一環として、自然王国が地元に開館することになり、役場の職員として児童館の仕事を手伝ったのがきっかけでした。


「児童館の仕事を手伝いながら、プレイリーダーと一緒に顔出しパネルをつくったこともありました。幼い頃から絵を描いたり工作をしたり、物語を考えたりすることが好きで、こどもたちにどうしたら楽しんでもらえるか、時間も忘れてワクワクしながら取り組んでいました」


児童館の仕事に興味を持ち、積極的に手伝うようになった梅田は、さらに学びを深めようと、児童厚生員が集まる研修にも意欲的に参加します。


ー「今までの研修のイメージとは違って、参加者同士のコミュニケーションの機会が多く、実際に体を動かしたり、ロールプレイングを行ったり。表現活動が本当に楽しくて新鮮でした。研修で出会った皆さんとは、児童館の仕事のことなど夜中まで語り合いましたね。

過去に好きなこと、やりたいことを仕事にするのを諦めていた時期もあったのですが、『やっぱり児童厚生員になりたい!』という強い想いとともに、児童館の道へ進むことになりました」


好きなことを仕事にしたい!と意気込んで児童館へ就職したものの、最初はうまくいかないこともたくさんあったと言います。


ー「自分の想いややってみたいことをカタチにすることの難しさを感じました。実現していくためには仲間たちと共有してチームとして取り組むことが大切だと学びました。これからも、児童館でやりたいことに挑戦していくためにも学び続けたいって思っています」



「自然体でいいんだよ」とこどもたちが教えてくれた


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▲「新潟こども自然王国の歌」を聴きながら、こどもたちの夢や想いを描いた書道パフォーマンス


そんな悔しさを味わう経験もありながら、児童館でこどもたちと触れ合ううちに、自身が自然体でいることが大切だと気づいたと言います。


ー「こどもたちは私をいろんなニックネームで呼んでくれます。大型児童館なので、家族や学校単位で来るこどもたちや、キャンプ目的や放課後にふらっと来るこどもたち、いろいろです。

こどもたちが児童館で自分らしく過ごしてくれるには、私自身も先入観を持たずに自然体でいることが大事だなって思っています。そのほうがこどもたちの声がよく聴こえてくるような気がするんです」


こどもたちの「うめ!遊ぼう!」というかけ声に明るく応える梅田ですが、「最初は壁だらけだった」と、プレイリーダーとしてスタートした頃を振り返ります。こどもたちとの関わりで悩んだ経験が、現在の活動の糧になっています。


それは、児童館に勤め始めてまもない梅田が、初めてキャンプスタッフを担当した時のことです。


「最初はこどもとの距離感がわからず戸惑うことばかりでした。ある子がキャンプ中ずっと私のそばを離れずにいたけれど、わざと反発的な態度で、その頃の私は、正直どうしたらいいのかわかりませんでした。

今思い返すと、その時はこどもの言葉や行動の中で見えない心の声に気づくことができなくて。嫌われないことを意識した言葉がけしかできなかったんです。キャンプ中、その子が心を閉じたことが感じられ、自分が何もしてあげられなかった後悔で、終わった後もその子のことが頭から離れませんでした。

こどもたち全体を気にかける余裕もなく、楽しさだけではない経験として今も心に残っています。大切なことを忘れないよう、いつもこの経験を思い出すようにしています」


毎日を全力で取り組む梅田。家庭で過ごす時間との両立に悩んだこともありました。そんな時、家族の一言が梅田の心を救ってくれたと言います。


ー「週末や祝日も児童館の仕事で家を留守にすることが多くて、自身のこどもたちと過ごす時間が取れず悩んだこともありました。その様子を感じ取ったのか、息子が『お母さんが誇りに思っている仕事なんでしょ。お母さんはあの場所にいなきゃダメだよ。頑張れよ!』と、言ってくれて。こどもって、見ていないようで大人のことをよく見ているんですよね。

児童館の仕事を大好きな私の気持ちを応援してくれている言葉にいつも励まされています。そんな息子も今は大きくなって『そんなこと言ったっけ?』ととぼけていますが(笑)」



横のつながりに支えられながら、「地域のパワースポット」としてさらに盛り上げたい


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▲「若もんで語ろう夜」の様子。はじめまして!のメンバーも自然王国の遊びを取り入れながら楽しく交流


自然体の梅田と接するうちに、「自然体の自分でいいんだ」と気づく子もいます。幼い頃からずっとキャンプで児童館に通っていた子が、卒業する時、嬉しい言葉をかけてくれたと言います。


ー「その子とも気づけば長~いつきあいになります。キャンプ中に悩みや思いを聴くことはなかったけれど、大学生になって最後のボランティアに来てくれた時に、『この場所があったから自分らしくいられたんだ』『ここは第二の故郷、いや、自然王国がふるさとかも!』と私に伝えてくれて。

ずっと来てくれたこと、話してくれたこと、自分らしくいられる場所だったこと、心から嬉しかったです。何年か後に児童館に埋めたタイムカプセルを開けに帰ってきてくれる予定です。いつでも「おかえり~!」と迎えたいですね」


自然王国では、こどもが参加するイベントはもちろん、「自然王国de婚活」「若もんで語ろう夜」など、地域の大人が参加できるイベントも数多く開催しています。社会がめざす「こどもまんなか」とは、こどもはもちろん、大人同士もつながって未来をつくることだと梅田は語ります。


ー「こどもの頃から児童館に来ていたこどもたちも大人になって、居場所を求めつつも『人』との出会いも求めていると感じています。児童館での人との出会いをつくり、遊びや体験を通した人との関わりも大切にしていきたいです。

『若もんで語ろう夜』は地域の若者と宿泊に来ていた若者も一緒に交流しながら語る場となりました。児童館が人を結びつける場所でありたいと思っています。

こどもの頃から来ている場所だから、と参加してくれる大人もいますし、こどもたちの未来を考えて参加してくれる大人もいます。どんな活動の中心にもやっぱり『こども』がいます。こどもはもちろん、こどもを中心に大人たちもつながって、地域の悩みを解決し、未来をつくっていく。児童館はあらゆる人が集い、ものすごい力を生み出す『地域のパワースポット』ですね!」


梅田は子育てをする親の1人としても、児童館の横のつながりに支えられていると語ります。


ー「自分自身も子育てに悩んだ時、全国の児童館の仲間に相談してきました。皆さん、単に言葉を聞くだけではなくて、表情や背景にあるものを読み取る力が素晴らしいんです。私の悩みを聞いて、その時の自分が一番欲しい言葉をくれるんですよね。

仲間たちに心から感謝をしつつ、児童館の取り組みをもっと発信して、今頑張っている子育て世代の方々にも、『地域みんなの力を借りて育てていこうね』と伝え続けていきたいです」



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※全国各地の児童館職員のストーリーは「talentbook」でもご覧いただけます。
 児童健全育成指導士等上位資格取得者、児童健全育成賞(數納賞)入賞者、児童館推進団体役員、   
 または被推薦者等から、地域性を考慮して選出された方をご紹介しています。

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