能登地震から1年、こどもたちの発想で地域を越え支援
目次
災害時こそ大切なこどもの居場所
令和6年能登半島地震および奥能登豪雨により、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
災害発生直後、児童館は地域住民の一時的な安全確保の場になることが求められます。しかし、こどもが過ごす場所が長期的な避難所や支援物資置き場になるなど、その機能が制限されるケースも多くみられます。公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが今年7月に実施した調査 では、能登半島地震やその後の生活について、大人や社会に伝えたいことがあると回答したこどものうち、「こどもが過ごす場所(遊び場、公園や居場所など)」を選んだこどもは3割近くでした。
具体的には、仮設住宅や避難所の設置により、こどもたちが使用していた運動や遊びの場がなくなっていること、立入禁止の公園などが増えこどもの居場所がなくなっていることなどの声が届いています。
2023年12月に閣議決定した「こどもの居場所づくりに関する指針」では、災害時におけるこどもの居場所づくりに関して「災害時などの非常時こそ、こどもの声を聴き、こどもの権利を守ることが必要である」と明記されました。これを受けて、令和6年12月に改訂された児童館ガイドラインにも、災害時、一時的な安全確保の場の後、こどもの居場所・遊び場として機能することを求め、これらを業務継続計画(BCP)に盛り組むよう記載されました。
児童館はこどもの声を聴きながら、こども主体の居場所づくりを実践してきています。能登半島地震から1年が経とうとしている今、こどもたちが主体となり、被災地のこどもの居場所づくりのため「能登応援カフェ」を実施した金沢市の浅野町児童館の事例を紹介します。
「できることからはじめよう」と小さく始まった被災地支援
浅野町児童館では、2016年よりこどもたちが児童館横の畑や農業生産法人の畑、近隣の田んぼなどで農作物を栽培・収穫し、商品化・販売する「おいしいよ農園」の活動を実施しています。これまで保護者や地域の人、NPOと協力しながら、おいしいよ農園カフェやイベントを開催したり、オリジナル商品を作って販売したり、こどもたちが主体的に動いてきました。
そんな中、2024年1月1日に能登半島地震が発生しました。被災した珠洲市に祖父母がいたり、お正月で帰省中に地震にあったりするなど、被災地がとても身近だった浅野町児童館のこどもたちと職員は、「被災地のために何かしたい」と思うようになりました。
児童館にくるこどもたちと話す中で、まずはできることから少しずつ、活動をはじめることとなりました。こどもたちが中心となり、能登への思いなど手書きの応援メッセージを集めて「おいしいよ農園」の活動でお世話になっている能登町松波米飴の横井さん、能登町立小木小学校、珠洲市立宝立小中学校(避難所)にメッセージを届けました。
さらに、能登の人たちに「支援物資を届けよう」「義援金を集めて送ろう」などの声がこどもたちから出たため、「おいしいよ農園」の商品を販売して資金をつくることになりました。春休み中には、お米よりおにぎりが売れると考えた小学4年生5名が、「おいしいよ農園」で販売しているお米「めっちゃう米」でおにぎりを作り、販売しました。おにぎり材料の買い出し、お米の炊飯、案内のポップなどはこどもたちが準備し、その売上の中から8,000円を義援金として手作りの色紙とともに被災地に寄付することができました。その後もさまざまなイベントを実施し、能登応援の資金にしました。
震災発生以前も、「おいしいよ農園」の活動ではこどもが主体的に考えたイベントを実施していました。今回の被災地支援では児童館職員たちは、こどもの「やりたい」を実現するために話し合いを大切にすることを伝えながら、こども主体の活動をサポートしました。
能登の人も一息ついてほしいと、応援カフェ開催へ
小さな活動を積み重ねてきた浅野町児童館ですが、こどもたちの元気を能登の人にも感じてもらいながら、ほっと一息つける場所を提供するために「能登応援カフェ」を開催することにしました。6月に高齢者施設で開催した「おいしいよ農園カフェ」は、飲食物を提供したり、オリジナル商品を売ったり、こどもも大人も楽しめるイベントとなり、こどもたちから「能登でも実施してみたい」との声がありました。
職員が能登町にあるまつなみキッズセンターと相談し、8月24日に第1回の「能登応援カフェ」を実施することが決定。カフェだけではなく遊びのコーナーもあったら楽しいというこれまでの経験も活かし、準備をはじめました。
おいしいよ農園かるたに描かれている「お米マン」をこどもが新たにデザインし、生菓子にして能登に届ける、商品デザインを能登応援シールにするなど、こどもたちからはさまざまなアイデアがありました。「能登応援カフェ」告知チラシとポスターを作成し、児童館に貼り出したり、放課後児童クラブのこどもと保護者会にもお知らせしたり、企画から宣伝までこどもたちが主体的に準備を進めました。
一時避難として浅野町児童館に通っていた能登出身のこどもたちに「能登応援カフェ」の招待状を送った効果もあり、イベント当日は50名程度が参加しました。こどもたちが考案したオリジナルメニュー「おしゃれサイダー」や「めっちゃあめー」を提供したり、ライアー演奏会を開いたり、ボール投げや工作遊びなどのあそびを実施したり、楽しく交流しました。
当日参加したこどもたちからは、「能登町の人たちが笑顔になってうれしく満足した」や「みんなが食べ終わった後に『ありがとう』『おいしかった』と言ってくれて嬉しかった」「交流の時間が短かったので時間があれば良かった」「引き続きいったらみんなとなかよくなるかも・・・」など、またやりたいと前向きな声が集まりました。イベント終了後に能登のこどもたちからは写真つきのお礼メッセージが届き、双方のこどもたちが楽しめるイベントとなりました。
「もう1度、能登にいきたい」というこどもの声
8月の能登応援カフェ実施後の前向きな声も踏まえ、職員からこどもたちに問いかけると「もう1度、まつなみキッズセンターに行きたい」や「まつなみの子とあそびたい」などの声がありました。
第2回もこどもたちが中心となって、イベントの企画や準備を進めました。話し合いの結果「みんなで楽しく遊ぼう」という声があり、まつなみのこども達とハロウィンをすることが決定。ハロウィンのグッズやパーティーのお菓子はこどもたちが購入し、当日の企画内容も、こどもが考えて準備に取り掛かりました。
また「おいしいよ農園」でさつまいもほりを実施していたことや世代間交流を考え、焼き芋大会を実施することになりました。当日の天候により、ふかし芋大会に変更になりましたが、保護者の協力もあり、楽しく本番を迎えることができました。また、今回はまつなみキッズセンターがポスターを準備したり、ゲームを準備したり、能登応援カフェを一緒に作りあげることができました。
第2回の能登応援カフェ実施後には、「能登のみんながゲームを用意していてくれて嬉しかった」「能登の皆とあそべてよかった」などの声があり、一緒に遊んで交流を深めたことがわかります。
また参加した保護者からも、「こどもたちが笑顔で楽しんでいたし、大人の私も楽しかったです」「娘は準備がとても大変だったと言っていましたが、やりとげた時の気持ちは日常では感じられないものだったと思います」など、とてもポジティブな声がありました。
このイベントは、こどもたちの声に耳を傾けながら、こども自身が持っている力を発揮し、こどもたちの「やりたい」を実現するため、職員をはじめとする大人が支援しました。「こどもまんなか」な地域のこどもの居場所となっていた児童館であったからこそ、実現することができました。
まとめ
浅野町児童館は今後もまつなみキッズセンターとの交流を継続していく予定です。「能登の祭りに参加してみたい」など、こどもの声も踏まえて、能登のこどもたち自身が力を発揮できるように今後の企画を検討していくそうです。
このように全国には災害時のこどもたちの居場所づくりとして、今できることに取り組んでいる児童館があります。今年7月に全国児童館連絡協議会と(一財)児童健全育成推進財団との間で締結された「大規模災害時児童館等活動支援に関する協定書」 によって、さらに迅速かつ円滑な組織的支援活動を実施することが可能になりました。
全国の児童館の支援する児童健全育成推進財団では今後も児童館を通じた災害時のこどもの居場所づくりに取り組んでまいります。令和6年能登半島地震の支援活動の詳細はこちらよりご覧ください。
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