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好きなことを続ける秘訣は「自信」を持つこと

世界体操選手権大会において最も美しい演技をした選手に贈られる「ロンジン・エレガンス賞」を日本人女性として初めて受賞した田中理恵さん。引退後は講演活動や体操教室での指導・メディア出演などを通じて、体を動かす楽しさを広める活動を続けています。プライベートでは二児の母である田中さんに、こどもとのかかわり方や子育てで感じたことをお話いただきました。


(※本インタビューは情報誌「じどうかん」2025冬号に掲載されています)


身近だった体操と人とのかかわり


小さいころは体を思い切り動かして、夏は真っ黒に日焼けしながら、兄や弟、幼なじみたちと日が暮れるまで遊んでいました。近所のおじちゃんに自転車の乗り方を教わったり、地域のみんなに見守られながら育ててもらったのを覚えています。


家にあったトランポリンや鉄棒でもよく遊びました。母が地域の体操教室の先生をしており、兄や弟と一緒に連れていってもらったこともありました。そんなふうに、体操は身近な暮らしの中にあったんです。


夢はアイドルになることだったんですが、小学1年生のとき、母に「体操を頑張ったら、オリンピックでみんなに見てもらえて、きっとアイドルになれるよ」と言われ、体操に打ち込むようになりました。今思えば、母はうまかったなと(笑)。


第1子(長女)が生まれたときは、家に二人だけでいると息が詰まってしまいそうになるので、週に3回くらい児童館に行って、気分転換をしていました。滑り台や積み木、キッチンでのままごと遊びが大好きだった娘とたくさん遊んだのが懐かしいです。児童館に来ているほかの保護者の方と話すことでもリフレッシュできました。


娘が成長して、こども同士でかかわりを持ち始めると、成長段階の中で、おもちゃの貸し借りを覚えて「貸して・貸したくない」などの小さなぶつかり合いが生じるようになりました。でも親の心配をよそに、自分たちでどうすれば仲良くできるかを考え、そのやり取りで友だちと一緒に成長したんです。娘はいま小学生ですが、その子とはいまでもなかよしです。


こどもの好きなこと
夢中になれる瞬間に寄り添う



▲公園の渡り棒の練習。(Instagram@riiiiiie611)


娘がまだ未就学児だったころ、「ボールつきを10回成功させる」と自分で決めて、ずっとやり続けていた姿を見ました。まだ小さかったこともありうまくできず、途中で泣き出してしまったんです。


私もこどものころから負けず嫌いで、気持ちがわかるからこそ納得するまでやらせてあげたくて、ただ近くで見守りました。親としてできるのは、励ますことや小さな目標をつくってあげることぐらいです。


ついに10回成功させたとき、実はこっそりカメラを回していました。隠し撮りしていたことを忘れていて、「やったー!」と私が一番大喜びしてしまったんです(笑)。そのときの映像はいまでもこどもと一緒に見返しています。


好きなことをしているとき、こどもって本当に夢中です。必死になって、できなくて悔しくて、でも絶対やるんだというあの表情、すごくいいですよね。どんなことでも、自分はこれが得意だと感じたら、目はキラキラしてくるんです。夢中になれるほど得意なことを、たくさん見つけてあげたいなと思っています。


子育てによる時間的な制約からやりたい仕事を断ることも増えましたが、次第に我慢しすぎると自分の心がダメになってしまうことに気づきました。「こどもは大事。それと同じくらい、自分も大事にしたい」と感じ、「こどもがいるからこの仕事を諦めよう」というのは違うんじゃないかと考えるようになりました。


義母などに「この仕事をしたいから、少し見てもらえますか」と相談できるようになったのは、変わったことの一つかもしれません。いまは「子育ても自分の仕事のやりがいも平等に大切」と考え、そのために家族会議をしています。多くの方に助けてもらい、いざというときは自分も誰かを助ける。いつも元気で笑顔でいるためにも、誰だって一人じゃ頑張れないと思うので、そんな助け合いを続けていきたいです。


こどもが安心して自信を持てる環境づくり



▲こどもたちに教える前に、ストレッチ


2021年から、きょうだい三人で「田中体操クラブ」をスタートしました。こどもたちに体を動かす楽しさをシェアし、基礎となる体づくりや、スポーツをより楽しむための自信を持ってもらうことを目標にしています。


私たちが守ることの一つに「怖いことはやらない」があります。通っているこどもたちの中には、運動が苦手な子もいます。たとえば、逆上がりが怖いときは、鉄棒からは一旦離れて足を上げる練習をしています。「ここまで足が上がるなら、もう鉄棒で回れるよ」という声かけで導くと、不思議なほど成功するんです。


何かを続けられる理由は、「好き」はもちろんだけど、「自信がある」からでもあります。こどもは一人ひとりまったく違うので、声かけに正解はありません。どうすれば笑顔が引き出せるか、自信をつけてあげられるか、それぞれに合わせたやり方で試行錯誤しています。


以前、わが子と習いごとの見学に行ったとき、「できていないこと」が目についてしまう悩みを母に相談したことがありました。そのとき「こどものいいところを五つ見つけなさい」と助言をもらったんです。「いま、先生の目を見て話を聞いていたな」「一生懸命な顔をしているな」といいところを数えることで、見える景色が変わりました。見学の時間は、保護者がこどものいいところをたくさん見つける時間なんだと。ぜひ、習いごとをはじめようとしている保護者の方にはやってみてほしいです。


体操教室では、こどもたちを支える側として常に笑顔でいることを心がけ、ホッとできる環境づくりに励んでいます。きっとそれは、児童館の皆さんも同じですよね。一緒に頑張っていきましょう!



<プロフィール>
たなか りえ
1987年6月11日生まれ。和歌山県出身。2010年ロッテルダム世界体操選手権で日本女子初の『ロンジン・エレガンス賞』を受賞。2012年には、同じ体操選手である兄・和仁、弟・佑典とともにロンドン五輪へ出場し、体操日本代表史上初の「きょうだい3人揃っての五輪出場」を果たす。全日本やNHK杯などの大会で女子個人総合優勝などの実績を残し、2013年の引退後は兄弟とはじめた体操クラブでこどもたちへの指導にあたるほか、YouTube『田中理恵 Riefit』(登録者数31万人)をはじめ、さまざまなスポーツイベントやテレビ番組への出演など、多岐にわたって活動中。

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