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児童館が「受け止めてつなぐ」ネットワークで子どもを支える

児童館を子育て支援と地域ネットワークの拠点と位置付け、改革を進めてきた北海道中標津町。「中標津町児童センター みらいる」の大久保 さくらは、町の方針に共鳴しながら、現場で子どもたちに真摯に向き合い、地域のネットワークづくりに奔走してきました。大久保に、地域で児童館が果たす役割を聞きました。


「中標津町から、不幸な子どもをつくらない・つくらせない」


6260ef77-605e7648▲「中標津町児童センター みらいる」児童厚生員の大久保 さくら(2022年4月より中標津町西児童館に勤務)

北海道東部に位置する中標津町は、酪農を基幹産業とする人口2万3,000人ほどの町です。大型商業施設があるため、近隣からは買い物に便利で働く場所もある町として認識されており、転入者や核家族の子育て世帯が多いという特性も持っています。こうした町の状況を受け、中標津町は子育て支援を町の主要施策に掲げてきました。そして、児童館はこの支援策の要となる施設として位置付けられ、役場のひとつの課である「子育て支援室(以下支援室)」が管轄するという構造になっています。


具体的には、小学校の校区ごとに4つの児童館が配置され、放課後児童クラブも併設しています。なかでも、2015年に開館した「中標津町児童センター みらいる(以下みらいる)」は、乳幼児から高校生まで広域な世代が集う中心施設です。この「みらいる」で、みんなのリーダー的存在として働いているのが、補助指導員から数えて18年のキャリアを持つ大久保 さくらです。


大久保は、自身の子育てがひと段落した時に知人に誘われ、児童館職員の道へ。折しも、それは中標津町が子育て支援を重視し始めたタイミングと重なりました。町が改革を進めていく過程の中で現場に立ち、子どもたちやその親と関わり続けてきました。


ー大久保 「目の前にある課題に必死に取り組んできたら、18年経っていたというかんじです。よく覚えているのは、障がいを持っている子に腕を噛まれた時のこと。

当時は支援ネットワークがまだ整っていなかったこともあり、その子が障がいを持っていることも、どんな障がいなのかも知らない状態で接していました。噛まれた時は困惑しましたが、同時に『どうして噛んだのだろう?噛まないといけない状況にあるこの子はしんどいだろうな、何かできないだろうか』と強く思ったのを覚えています。

その後ケアカウンセリングの研修を受けて、そんな子にどう共感して、どう接するのがよいのか学んでいきました。その後も、さまざまな環境に置かれている子どもたちと出会いました。その都度周りに聞いて、学んで、少しうまく接することができるようになって。それを繰り返して今までやってきたというのが実感です」

「自分はいつも後手に回ってばかり」と大久保は言いますが、それは、先入観を持たずに目の前の子どもに対してまっさらな気持ちで向き合ってきたということでもあります。彼女のこうした姿勢は、子育て支援室の前室長の女性に大きな影響を受けていました。


ー大久保 「前室長は、福祉課の職員だった時、虐待の現場を目の当たりにし、子育て支援とそのためのネットワークの必要性を町に訴え、改革を推進してきた方です。彼女に学んだことは多いのですが、私にとって大事な言葉が2つあります。ひとつは“あなたにとっての当たり前は、みんなの当たり前じゃないという言葉。もうひとつは、彼女が掲げた“中標津町から、不幸な子どもをつくらない・つくらせない”という町全体のスローガン。この2つの言葉は、私を導いて、今も支えてくれているように思います」


児童館は、子育て支援ネットワークの「つなぎ目」


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▲町内会の方からレクチャーを受けながら野菜をつくる「たがやし隊」。畑仕事を通じておじいちゃん世代と関わり、変化していくことを期待して始まった取り組み


現在「みらいる」をはじめとする4つの児童館は、中標津町の子育て支援ネットワークの拠点となっています。「中標津町から、不幸な子どもをつくらない・つくらせない」という目標に向かって、児童館が果たしている役割とはどのようなものなのでしょうか。

ー大久保 「子どもたちに寄り添い、受け止めて、つなぐ場所だと思います。話したいと思った時に隣にいて、話をフラットに聞いてあげられるのが私たち児童館職員の強みです。関係があればあるほど、悩みを言えない相手っていると思うんですが、子どもたちや保護者の方にとって、利害関係のない私たちは、何を言っても損をしない存在なんです。だからこそ、素の姿を出せるのだと感じています」

評価されたり、指示されたりしない。そして、行ってもいいし、行かなくてもいいという自由な場所は、子どもたち、そして親たちの世界のなかで他にはない価値があると大久保は言います。

ー大久保 「話を受け止めたあと、必要に応じて学校、幼稚園と情報共有したり、支援室を通じて児童相談所や病院などの専門機関とつながりを持ち、関係者で会議をしたりすることもあります。必要性を感じて会いに行くと、たいていは相手も私たちに会いたがっていたということが多いんですよ。組織が違っても、子どものためにつながりたがっているんだなとその度に思います」

「今は町全体に、子どもに関心を持って大丈夫。そんな雰囲気があります」と語る大久保。地域の方が子どもに関わる機会も増えています。地域の方が特技を登録するチャイルドアドバイザーという仕組みもそのひとつです。児童館は、登録されている地域の方を将棋やお手玉の先生として遊びのプログラムを組み、異世代交流の場づくりをしています。

ー大久保 「お手玉教室を企画した時、先生として来た方が、『あの子お手玉投げつけていて寂しそうにしていたわね。また様子を見に来るわね』と言ってくださったことがありました。教えるだけでなく、子どもたちを気にして、積極的に関わってくださる。そんな方がたくさんいらっしゃるんですよ」


次のステップは、中高校生との関わり


6260ef7a-d8a85e1f▲児童館職員が中学校に出向いて行う「赤ちゃん交流」も、児童館と中学生との接点のひとつ

長年の取り組みを経て、形になりつつある中標津町の子育て支援のネットワーク。大久保が次のステップとして見据えるのは、中高校生に向けた支援です。


ー大久保 「例えば、乳幼児やその親御さんが困った時、つなげるネットワークはできています。保健師さんや病院、こうだったらここへ、とつなぎ先も明確です。でも、中高校生世代というのは、そうした支援組織がほとんどなく、とくに不登校の子どもたちの受け皿がないように感じています。そういった学生に対しても、“みらいる”という場所を活用していきたいのですが、まだ至っておらず、歯痒く思います」 


全世代に向けた施設である「みらいる」は、中学生は19時、高校生は20時まで利用できます。中高生だけが利用できる音楽室もあり、17時以降は、ダンスや趣味の活動のためにグループで部屋を借りることも可能です。こうした仕組みは、中高生によって組織された「みらいる建設プロジェクトチーム」による意見を反映したものです。 


さらに、中高生が「みらいる」に来館するきっかけ作りとして企画しているのが、月に2回企画している「中高生ひろば」です。18時〜20時の時間帯で、サバイバルゲームなどのイベントを開催。中高生が楽しく過ごせる居場所となるよう、企画と呼びかけに力を入れています。


ー大久保 「中学校を訪問して私たちの取り組みを説明すると、先生たちも共感してくださることが多いんです。『学校がしんどい子をどこにつないだらよいでしょうか』と聞かれ、『児童館でも何かできることがあると思います』と答えたこともあります。

中学で不登校になった子の中には、小学生の頃から児童館に遊びに来てくれていた子もいて、私たちはその家庭の背景も知っていることがあります。そのため、親子関係で問題がある時も、状況を察して、言葉がなくても寄り添ってあげることもできると思っています」


めざすのは、みんなが安心して「素」になれる場所


6260ef7b-2d2a41d1▲2021年12月に開催した「みらいる」のじどうかん祭りの様子

「みらいる」をはじめ、中標津町の全児童館が、1年の中で最も活気づく日があります。それが、毎年10月に開催してきた「じどうかん祭り」です。全町の子どもたちが集まって、遊びや音楽や芸術、多方面から子どもたちがやりたいことを形にする場になってきました。小学生が実行委員、実行委員長までも務め、大人はサポートに徹します。地域や中高生のボランティアを含めると2,000人規模となる大きなイベントでした。


しかし2020年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、従来のじどうかん祭りは開催中止を余儀なくされます。2021年は、児童館ごとに、月〜金曜日まで毎日開催する形に変更しました。しかしこれが、思いのほかとても良いイベントになったと大久保は振り返ります。

ー大久保 「毎日がお祭りで、子どもたちみんな、すごく盛り上がっていました。お化け屋敷を作って、やりたい遊びを手作りして、日に日に何か楽しいものが増えていくんです。職員も子どもも、素直にやりたいことを好き勝手にやっちゃう、そんなお祭りになりました」

それぞれの子どもが、素直にやりたいことを形にする──2021年に開催したじどうかん祭りは、まさに大久保のめざす児童館のあり方と重なります。大久保がめざす児童館は、「みんなが安心して素になれる場所」。どんな人も、ふらっと立ち寄って、そして笑顔になれる場所でありたいと言います。


ー大久保 「昔児童館に通っていた高校生が立ち寄ってくれて、友達に『この人めっちゃ恐いから!』って、バツの悪そうな顔をしながら、私のことを紹介してくれたんです。その子にとって私って、カッコつけられない人、もういろいろ知られちゃってる人という扱いなんですよね。難しい年齢の子でも素直に話をしてくれるから、ずっと関わっている親以外の大人がいることって、子どもにとってすごく安心できることなんだなと感じます」

点在する拠点をつなぎ、横に広がる子育て支援ネットワークの線。乳幼児から中高生世代まで受け入れ続けることでつながる、縦の線。大久保は、目の前のひとりひとりと向き合いながら、子どもたちを支える線のつなぎ手となってきました。「どんな時でもぽっと灯って照らしてくれる光、そういうものになれたらいいな」。そう語る大久保は、今日も児童館に光を灯し、子どもたちがやってくるのを待っています。

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