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予防的観点から望んだ3年間の取り組み ~自分を大切にできる子どもに~

児童健全育成に関する優れた実践報告に対し、褒章を行う児童健全育成賞(數納賞)。平成29年度受賞実践論文から、愛知県北名古屋市にある鍛治ケ一色児童館 高橋由香里さんの取り組みをご紹介します。


はじめに


鍛治ケ一色児童館は、児童クラプ併設ではなく自由来館児のみで、子どもの背景がわかりにくい中、性質の理解、困り事、強み、潜在能力の察知など丁寧に対応しています。丁寧な対応と子どもをわかろうとする意識により、虐待をはじめ諸問題の早期発見・早期対応につながっています。早期発見・早期対応それに加えて予防。この予防は、ソーシャルワーク実践の中でとても大切な観点だと考えています。そして、この予防という観点から、子どもがどんな風に成長してほしいのかを考をました。私たちが、普段かかわっている子どもたちの中には、専門機関に名前が挙がってこないけれども、さまざまな困り事を抱えた子どもが多数います。この子どもたちが、自己肯定感・自己有用感を高め、自分のことを大切に思えるような支援をしていきたい。この先、何があっても自分のことが大好きで大切だから、乗り越えていける、生き抜いていける、そんな強さと力を備えてほしいという予防的観点から、今回の実践がスタートしました。


実践方法


自己肯定感・自己有用感は、成功体験や達成感を感じる体験が多いほど高められると考え、北名古屋市の「子ども・子育て支援事業計画」の施策の中にある「子どもの出番・居場所づくり」「子どもを地域で育てる意識づくり」に焦点をあて進めていくことにしました。この二つの施策の交わるところに位置づけたのが、年間行事の中で最も多くの人がかかわる夏まつりです。「こどもがつくる夏まつり」として企画・準備・運営全てを子どもに任せることを児童館だよりで告知し、実行委員を募集しました。


「こともがつくる夏まつり」~A君の夏~


自己肯定感・自己有用感は、成功体験や達成感を感じる体験が多いほど高められると考え、北名古屋市1年目は、35名6グループで準備がスタートしました。私たちは、目標に向かって支援するとともに、さまざまな事項を自己決定できるようにすること、各々の強みを前面に出していけるようにすることに配慮しました。また、できる限り介入しないようにと口も手も出さない我慢の日々を過こしました。その中で、当日が終わるまで目が離せなかったのがA君でした。


高学年のA君は、普段から自分の世界に入ってしまう子どもで、コミュニケーションをとることが苦手です。来館しても一人で本を読んで過ごしていました。うまく人とかかわることができないので、トラプルになることや誤解されることもありました。このA君が「児童館だよりに書いてあった夏まつりのお店出すっていうの、僕やりたいです」と申し出てくれました。私たちは、A君が自分からやってみようという気持ちになったことがとても嬉しく、最後までしっかり支援し自信につなげていきたいと思い、参加者400名以上の行事にもかかわらず「一人でコーナーをしたい」というA君の譲れない希望を受け入れ、夏まつりが始まりました。


A君への寄り添いには「やる気を尊重し自信につなげていくこと」「危険なこと以外は、話し合いにより実践に向けて進めていくこと」に配慮しました。また、普段からA君のことを心配されている母親には、進捗状況やA君の様子を定期的に報告することで不安を軽減しました。民生委員さんはじめ手伝いに入ってくださる地域の方には「こどもがつくる夏まつり」開催にいたった課題、現状、目的について援助計画を基に丁寧に説明しました。援助内容としては「できる限り子どもに任せてほしいこと」「何か問題が起きたときどうするかの決定は、無理のない範囲で子どもに決めさせてほしいこと」「本番が終わったときには、ここが良かったと具体的にほめてほしいこと」をお願いしました。そして、初めての「こどもがつくる夏まつり」本番。A君のコーナーは、複雑な仕組みの輪投げでした。こだわりが強いことや言葉足らずのところがあり、参加者を怒らせてしまう場面もありました。しかし、本人の折れない心と民生委員さんの支えにより無事に終了することができました。振り返りでA君は「厳しくすることにこだわり難しくなったので、今度はもう少し簡単にしたい」「いつもかかわり合わないような子どもや地域の人とかかわり合えたことが良かった」と話してくれました。人とかかわり合うことが良かったと思えた経験は、今後のA君にとって変化するきっかけになったのではと思いました。


地域の方には事前に「こどもがつくる夏まつり」にいたった経緯を丁寧に説明しましたが、当日は温度差を感じることがありました。子どもを優先してくださる方がほとんどでしたが、中には子どもの意向を聞かずに順序を変えてしまったり、行列ができて人がはけていかないとのお声も頂戴しました。多少の温度差は覚悟していましたが、そこを埋められなかったのは、子どもの思いをうまく代弁できなかった私たちの課題となりました。


振り返りと改善


この夏まつりをスタートとして、日常の活動や他の行事も子ども主体で進んでいくようになり、振り返り、課題抽出、改善を繰り返しました。そして、2年目の夏まつりでは、地域の方へ渾身の説明をしました。


「私たちは、子どもたちが自己肯定感・自己有用感を高め、自分は価値ある人間だと思いながら成長していってほしいと強く願っています。これを叶える―つの方法として、夏まつりの企画から運営までを子どもたちに任せる形をとって2年目になります。今日、この巳を迎えるために、何度も何度も話し合いを重ね、前進したと思ったらやり直しになったりと、山あり谷ありでした。子どもたちにとって険しい道のりを、途中で投げ出さずに今日を迎えたこと自体、とても素晴らしいです。子どもたちが誇らしいです。何枚もの壁を乗り越えてきた子どもたちですから、今日も最後まで頑張れます。色々なことが気になってしまうと思いますが、各コーナー、机の配置、物の配置、人の配置全てに、子どもたちなりの理由があり今日この形になっています。どうか、任せてやってください。どうしても改善が必要だと思うようなことがあれば、どうするかを子どもたちに決めさせてください。以上のことをくみ取っていただき、お支えいただきますようよろしくお願いします。」このように、振り返りと改善をしながら年月を重ねることで、それぞれに変化が見られその変化が児童館全体に波及していきました。


それぞれの変化


A君の変化です。経験を重ねることに笑顔が増え、視線を合わせて話ができるようになりました。また、こだわりの強さが和らぎ人と折り合いがつけられるようになったことなどどれも嬉しい変化でした。A君以外の実行委員の変化です。話し合いを童ねたことで自分の考えを伝えることや交渉すること、歩み寄ることができるようになりました。そして、自分たちの楽しみより参加者の楽しみを優先できるようになったことなど、他者へ配慮することができるようになりました。また、参加者の子どもたちは、活躍する仲間の姿に触れ自分たちも「何かしたい!」と自主的に行動し、活動や行事につなげていけるようになりました。そして、A君に対しては、一人で頑張る姿を何度も見る内に、上手くできない時でも温かく見守ってくれるようになりました。地域の方々の変化です。当初「大人主体のほうがどんなに楽だろうか」という意見もあり、地域の方々の中に温度差を感じていましたが、何度も繰り返した趣旨説明と子どもたちの生き生きした姿に触れ、年を追うことにその温度差は縮まっていきました。館内に留まらず地域の中に出ても子どもたちと積極的にかかわっていこうとする様子がうかがえました。


児童館の強みを活かして


この実践記録によって明確になったことは、子どもの自己肯定感や自己有用感を高めていきたいと思う職貝をはじめ子どもを取り巻く大人の意識が、一っ―つの支援に意味を持たせるということです。この3年間、子どもが意見を表出しやすいように日常的に子ども会議を取り入れ、話し合う機会を増やしてきました。そういった経験の積み重ねで、自分の考えを言葉にして伝えることができ、それが形になることや実践につながれば子どもたちの自信になり、自分に自信が持てれば、自己肯定感や自己有用感が高められます。その高められた先には、自分のことを認め好きになり、大切にしていける子どもたちの姿が見られるでしょう。決して上手く行くことばかりではありませんが、誰かが、どこかが、こういった支援を継続的に丁寧にしていかなければ、子どもは、自分を大切に思いながら成長することができないと思います。児童館の強みは、子どもの個性に合わせた支援方法の下、深くかかわっていけるところです。そして職員が、ソーシャルワーク的な視点を持ち、早期発見・早期対応に加え予防的な観点からアプローチしていくこともできます。今後も、さまざまな家族形態や諸問題を抱える子ども自身を積極的に支援するとともに、その家族や子どもがかかわる地域を含めアプローチしていく必要があると考えています。地域のネットワークを構築するだけではなく、それを手段として児童館は何を達成していけるのかを考えながら、また新たな実践を積み重ねていきたいと思っています。


出典:じどうかん2019冬号

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