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児童館がやってくる!移動型児童館で子どもの居場所づくり

あっという間に夏休みも明け、子どもたちは新学期を迎えています。休み明けは特に、生きづらさや困りごとを抱えている子どもたちが、新しいリズムでの生活に壁を感じてしまう時期です。全国の児童館では、そんな子どもたちに向けて毎年7月末から9月中旬まで「じどうかんもあるよ」を呼び掛けています。このメッセージには、子どもに寄り添い支援する児童館職員の「児童館を安心できる居場所の一つとして利用してほしい」という想いが込められています。


そんな居場所づくりの一つの取り組みとして、移動型児童館があります。これは児童館から遠くて遊びに来られない地域の子どもたちのため、他地域の児童館職員たちが出向いて居場所や遊び場を提供するもので、地域によっては出張児童館、出前児童館とも呼ばれます。利用にあたっては、予約不要で参加費無料、出入りも自由ですが、一部事前予約が必要な場合や、材料費等がかかる場合もあります。


今回は、宮城県石巻市内の移動型児童館の取り組みをご紹介します。



石巻の子どもたちの声から生まれた「移動型児童館」


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石巻市内の移動型児童館は、児童館まで足を運ぶことができない人のために、石巻市内の各総合支所地区の公民館などを巡回して子どもの居場所や遊び場を提供する活動で、昨年夏からスタ―トしました。


石巻市子どもセンター「らいつ」を運営するNPO法人ベビースマイルが企画し、らいつに勤務する職員が現場に出向き、遊びを通じて子どもたちの主体性を育むサポートをする児童厚生員としての専門性を活かしています。児童厚生員のほか、市職員、公民館職員、社協職員、民生委員、プレーワーカー、地域おこし協力隊、地域の団体やボランティアなどが協力して実施しています。


移動型児童館は、2022年度に開催された子どもまちづくり意見交換会での子どもたちの「居場所がほしい」「児童館をふやしてほしい」という声から生まれました。この意見交換会は、石巻市がSDGs未来都市であることを受け、SDGs17の目標のうちの一つ「11. 住み続けられるまちづくりを」をテーマに、子どもたち自身が石巻について自分事として考え、よりよいまちになるようにみんなでアイディアを出し合い、市に提言しようと開催したものです。


 当日の話し合いではさまざまなテーマがあがり、バスや電車などの交通手段の改善や、公園・公共スペース・空き家の活用、多様な世代が利用できる居場所の提案、新しい図書館の提案、街中での日常的な防災対策、環境問題への対策など多様なアイディアで溢れました。


 最終的には2つのテーマにまとめられ、子どもたちの声が市長に届けられました。一つは、「小さい子も中高生も使いやすい公園がほしい」というもので、子どもの世代交流をしていくことが大事なので、どんな公園なら中高生がいっしょに遊べるのか考え、みんなが使いやすい公園にしていきたいという声。もう一つは、「らいつみたいな気軽に立ち寄れて好きなことができる場所がほしい」というもので、石巻にはらいつみたいな子どもが自由に過ごせて、頼れる施設が少ないので、ただ施設を作るだけでなく、まちの人と協力して運営するのが必要だ、という声でした。


 子どもたちに求められている「居場所」「移動」「公共スペース」の要素から、移動型児童館事業が生まれました。



乳幼児からシニア世代まで、多様な遊びを提供


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移動型児童館で提供する遊びのプログラムには、年代を問わないもの、各地の公民館の状況に合わせたものがあります。例えば、年代問わず遊べるレクリエーショングッズとして輪投げや射的、魚釣りがあったり、工作グッズとして折り紙、色画用紙、大きな段ボール、カラーテープを用意したりしています。乳幼児向けのコーナーには、ブロックやテント、少し音楽の要素を入れてウクレレなども。風船も丸型に加えペンシル型まであります。定番アイテムは、黒板とチョーク、ボードゲームです。


公民館によって仕様が異なり、広い芝生がある会場ではプールを設置、焚火などもしています。子どもたちの遊びに寄り添う専門職の「プレーワーカー」にも毎度協力いただき、遊びの配置、例えば段ボールカッターを出す本数などその場の環境を調整しています。

始めは、輪投げや射的から遊び始める子も多いのですが、いつしか段ボールコーナーにハマり、もくもくと何かを作り始め、最後はみんな一緒に段ボールコーナーで何かをしている、といった経過をたどる光景も多いです。自分で遊び込める材料を準備すること、その時間・空間を大事にしています。時には段ボールを積んで蹴とばしたり、棒で叩いてボコボコにしたりと、遊びを通じてストレスを発散している様子もみられます。


ほかには、民生委員・児童委員協議会によるヨーヨーやスーパーボールのコーナーをコラボした地区や、ボランティアサークルによる絵本読み聞かせをコラボした地区、地域活動を行う青少年(ジュニアリーダー)と一緒に運営した地区など、各地で活動している方々と協力することでそれぞれの特色が出始めています。


子どもたちからの声として、「制作コーナーを増やして欲しい」「おにごっこ大会をしたい」など今後の企画に反映できそうなものもありますし、その日のうちに「みなさんカードゲーム大会しませんかー?」と子ども自身が呼びかけて実現していることもあります。



「友達ができた」「近くの遊び場が嬉しい」参加者から喜びの声も



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実際に移動型児童館に参加した子どもたち、保護者からは以下のような声があがっています。その一部をご紹介します。


<子どもの声>


・いつもは家でゲームしたりYouTubeを見たりしている。いろいろなもので遊べて面白かった


・家だとストレスがたまるのでいろいろな場所で遊んでいる。今年は外がとても暑いので室内で遊べるのは良かった


・ポケモンカードの大会ができて面白かった。他の地域の子とも交流してみたい


・遊びの種類がもっと増えたらうれしい。制作ができたら楽しそう


・こんなにたくさんの知らない人たちと遊んだことはなかった。お友達ができた


・帰りたくないくらい楽しかった。また来てほしい


・今日は知らない人もいるので楽しい


・友達のお母さんから聞いて来た


 


<保護者の声>


・夏は暑すぎて外で遊べないので室内遊び場が助かる


・異年齢や、他の大人との関わりができるのが良い


・夏休み中、孫の面倒をずっと見ていて大変だった


・仕事がシフト制で土日が休みではなく土日に子どもと遠出しづらい。近くに遊び場がないので参加してよかった


・いつもは子どもをショッピングセンターに連れて行って遊んでいる。子どもたちがたくさんいる中で遊べて良かった


・有給を取って子どもと遊びに来た。色々な世代の子と遊べて良い


・スタッフの方が下の子を抱っこしてくれたおかげで、上の子とゆっくり遊べて嬉しかった


・暑くて公園の遊具が使用禁止に。保育所に通う前だとママ友を作りにくいのでこういう場が欲しい


 


頻度は少なくても、人と人をつなぐきっかけづくりに


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この「移動型児童館」の取り組みは、年に夏と冬に分けて6地域を2回ずつまわっていて、来年も実施を予定していますます。子どもたちは移動型児童館を楽しみにしていて、学校で配られたチラシを持ち帰って保護者に「また行きたい!」とお願いしていたり、「仲良くなった他の学校の子とまた会えた!」と喜んでいたり。また「次は冬だね!」と楽しみにしてくれたりと子どもたちにとって居場所化してきた様子もみられます。開催頻度は少なくても、人と人とのつながりが居場所としての存在感を増しているようです。また、一緒に場をつくる大人の関係者の方々も回を重ねるごとに、チーム力が高まっています。


「移動型児童館が子どもの居場所づくりの実践の場、人材育成の場となり、子どもたちにとってさらに身近な場所に居場所が増えていくことを推進していきたいと思います」と石巻市子どもセンター「らいつ」館長であり、NPO法人ベビースマイルの代表を務める荒木裕美さんは話します。


今回の取り組みのような職員が出向く移動型児童館は、全国児童館実態調査(2021年実施)によると、全国の約24%の児童館が取り組んでいます。


児童館が無い地域にお住まいの方も、移動型児童館がやってくる機会があるかもしれません。ぜひお近くの児童館をチェックしてみてください。児童館の場所は、「児童館を探す」から検索いただけます。


 

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