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歌の役割って何だろう?子どもの笑顔で気づいた「みんなで楽しむ」大切さ

NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」11代目うたのおにいさんを番組史上最長の9年間務め、2017年に卒業した横山だいすけさん。
高校生の頃から一途に追い続けた夢、番組収録で子どもたちと過ごした経験、卒業後の活動についてお話いただきました。
(※本インタビューは情報誌「じどうかん」2023秋号に掲載されています)


ブレない夢は応援が支えに



▲5歳年下の弟と(2023/6/12 公式ブログより)


小さい頃は幼なじみたちと、近所の原っぱを駆け回って遊ぶような普通の子でした。ただ、昔から歌や子どもと遊ぶことが大好きで、高校生になると「将来は保育園か幼稚園の先生に」と思うようになったんです。教員指導要領を読んでいたら「歌は子どもの心の豊かさにつながる」とありました。子どもに歌を届ける仕事って何があるんだろうと考えていたとき、たまたま弟が付けたテレビに『おかあさんといっしょ』が映っていて。「これだ!」と思いました。

当時はネットも身近になかったので、「うたのおにいさん」のなり方なんてわかりません。母に「NHKに電話して聞いてみなよ」と言われました。思春期真っ只中だった僕は、「いや、そんなことしないし」と言いつつ、あとでこっそりNHKに電話していました。一般家庭で育ち、事務所に所属しているわけでもないので電話だけが頼みの綱です。毎年電話でオーディションがあるか聞き続けました。


大学に進学してからも、就職先の希望は「うたのおにいさん」とだけ書きました。学生科に呼び出され「真剣に考えて」と言われたことも(笑)。大学4年は募集がなくて、当時のおにいさん・今井ゆうぞうさんが元々所属していた劇団四季に入れば道がひらけるかも、と入団したんです。入団から2年経った頃、『ライオンキング』の主役・シンバの勉強をさせてもらえるかも、というチャンスが訪れ、多忙でたまたまその年だけNHKに電話をかけ忘れていたんですね。僕がおにいさんになりたいのを覚えていた後輩が「今日、うたのおにいさんのオーディションだったよね」と教えてくれたんです。一晩悩んで、電話をかけました。


そしたら、「ちょうどいま、うたのおにいさんの追加オーディションが決まったんです」というんです。運よくオーディションに参加し、おにいさんになれました。


僕はただ目の前のことに一生懸命で「なりたいんだ」と言い続けただけ。そんな僕を、周りの人たちがたくさん助けてくれました。劇団四季へと導いてくれた方々、歌の仲間たち、連絡をくれた後輩、そして家族。みんながいなかったら、おにいさんになれなかったと、いまも感謝の気持ちでいっぱいです。



▲まことおにいさん(第12代体操のおにいさん)と一緒に日本全国を歌を届けにかけまわる!


子どもの笑顔と保護者の涙


うたのおにいさんが変わると、必ず「新しいお兄さんの声に慣れない」という声が上がるものなんです。なりたての頃は「声が気持ち悪い」「見なくなった」とSNSなどで目にするたび、心は沈みました。そして2年目、東日本大震災が起きました。いてもたってもいられず、「番組として子どもたちのそばに行き、何かしたい」と直談判した僕に、プロデューサーは「気持ちはすごくわかるよ。でもね、おかあさんといっしょを1日でも早く当たり前のように放送し、変わりない姿を見せてあげることで、全国の子どもたちを元気にしてあげられるんだよ」と言いました。ずっと正しく歌うことが役目だと思っていた僕は、そのとき初めて「おにいさん本当の役割」に気づいたんです。


震災から半年後、プロデューサーが番組の特番を立ち上げ、僕たちを東北へ連れていってくれました。そこで歌ったのが「ぼよよん行進曲」。自分の想いをぶつければ何か届くかもしれない、そんな思いで歌いました。子どもたちは笑顔で歌ってくれ、その後ろで保護者の方々が泣いているのが見えました。それを見て、気にしていた否定的な声なんて、すごくちっちゃなことに思えたんです。本当に大事なことは、一緒に楽しむ気持ち。「歌って、これでいいんだ」と気づくことができた、忘れられない瞬間でした。


「楽しい!」は、子どもたちにも伝わる


就学前の子どもたちが安心できるよう、収録では、おにいさんおねえさんが、NHKの西口に迎えにいっていました。「お母さんと離れるのがイヤ」より「楽しそう!」という気持ちでいっぱいにしたい。子どもって、とても繊細に雰囲気を感じるんですよね。なので、僕も自分自身が思いっきり楽しむことを大事にしていました。


いま、親子向けミュージカル『世界迷作劇場』で全国を回っています。子どもはもちろんですが、保護者の方を楽しませることも大事にしています。子どもって、親が楽しんでいるかどうかをよく見ているんです。そういう幸せな空気があってこそ、子どもは心から笑える。いろんな子がいますから、泣いたって騒いだって大丈夫、気にしないで楽しんでほしいと伝えています。


これからやっていきたいのは、音楽を通して幅広い世代の人たちが集まり、笑いあえるような場所をつくっていくことです。『おかあさんといっしょ』を見てくれていた子どもたちが親になった未来でも、「だいすけおにいさん、ずっと頑張ってるんだ」という姿をまた見てもらえたらいいなと思います。


児童館で働かれる皆さん、子どもたちと向き合う仕事は楽しい一方で、自問自答したり壁にぶつかることもあると思います。


もしつらくなったときは、自分で自分をいっぱい褒めてあげてほしいです。そして、楽しんでいる姿を子どもたちに見せてほしいです。その姿はきっと子どもたちにも伝わるし、子どもたちの笑顔につながっていくはず。僕も皆さんにパワーを送り続けられるように頑張ります。皆さんの毎日を心から応援しています。


 


<プロフィール>
よこやま だいすけ
1983年5月29日生まれ、千葉県出身。国立音楽大学で声楽を学んだ後、劇団四季を経て2008年よりNHK Eテレ「おかあさんといっしょ」11代目うたのおにいさんに。在任中は、日替わりコーナー「かぞえてんぐ」など個性的なキャラクターで人気を博す。卒業後はソローアーティストとして、俳優、声優など幅広く活動中。2017年に立ち上げた、親子で楽しめるミュージカル『世界迷作劇場』は、来場者10万人を突破している。

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