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限られた環境の中で、親子で防災意識を高め工夫する力を育む

2011年3月11日に発生した東日本大震災から、今年で12年を迎えようとしています。昨年、岩手・宮城・福島の東日本大震災の被災地に住む人たちに行ったアンケートでは、「風化が進んでいる」と答えた人は63%にのぼりました。
(※2022年2月 NHKによる被災地住民アンケートより)


また、日本の防災意識が大きく変わるきっかけともなった、阪神淡路大震災からは28年を迎えます。神戸市にある六甲道児童館では、震災の記憶を風化させないため、災害を経験していない子どもたちに防災を"他人ごと"ではなく"自分ごと"としてとらえることができるよう、「防災ダンボールキャンプ」という体験型のプログラムを実施しています。ここでご紹介するのは児童館主催でのプログラムですが、ぜひご自宅でもお試しいただけたらと思います。


 


リュック1つ分、避難に必要な持ち物を自ら考える


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▲参加した子どもたちが持参したものを発表する様子

「防災ダンボールキャンプ」では、避難時にダンボールで家を作って室内で1泊すると仮定し、それにあたって必要なものを家族と相談してリュック1個分にまとめて持参してもらいます。参加者の対象年齢は、小学1年生から6年生です。2014年からスタートし、六甲道児童館が主催し地域ボランティアの方々にも協力いただき、これまで7回開催されました 。

プログラム当日は18時から集まってもらい、最初の1時間は親子で参加していただきご家族一緒に防災意識の確認することから始まります。


参加者全員で輪になって座り、各自持参したものを自分の前に広げます。その際、人に見せたくないものはリュックに入れたままでOKです。自分が持参したものの中から、おすすめのものを一人ずつ発表していきます。懐中電灯や防寒具、遊び道具などそれぞれ考えてきたものが発表されます。


 


「防災ってなに?」 震災を知るところからスタート


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▲阪神大震災をもとに描いた絵本「5さいのぼうさい」 の読み聞かせの様子


 被災した経験のある人はいるか、自分の家の避難場所を知っているか、連絡がとれない場合の家族の集合場所を知っているかなどを話し合います。


その後、親子一緒に防災を考えるきっかけとなるプログラムを実施します。阪神淡路大震災時の写真を見せて、それが現在のどこの場所なのか、どのように変わったのかをみんなで意見を共有したり、家族の緊急連絡先や緊急時の集合場所、アレルギーの有無を記したパーソナルカードを作成します。

小学生が考えた「新聞でつくるスリッパ」を紹介し、実際にみんなで作ってみることもあります。親子いっしょの時間ではあえて片足分しか作らず、後で一人でダンボールハウスをつくる際にもう片足分を作るよう促します。震災時、屋外にはガラスが散乱し、室内から裸足で非難することは難しい状況だったことを伝え、その場にあるもので工夫することを合わせて伝えます。

そのほか、震災を経験しているボランティアスタッフや保護者に当時の様子を話してもらうこともあります。昨年は、ゲストとして神戸のイラストレーターである廣瀬美帆さんに、ご自身が5歳の時に体験した阪神大震災をもとに描いた「5さいのぼうさい」を読み聞かせしていただきました。

廣瀬さんは、児童館の在所する地域でもある成徳小学校の出身で、参加した多くの子どもたちの先輩にあたります。阪神大震災のときは避難所となり、200名くらいの方が過ごした復興拠点の場所でもあります。絵本の中に子どもたちの小学校もでてくるため、より身近なこととして震災を考えるきっかけになったようです。


子どもたちの力だけで、ダンボールハウスをつくる


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▲子どもたち同士で助け合いながらつくったダンボールハウス


 この後保護者は帰宅し、子どものみでダンボールハウスをつくる時間となります。コロナ禍の前は、グループ分けをしてグループごとにダンボールハウスをつくっていましたが、現在は一人でチャレンジしてもらうようにしています。作り始めたとき、いざ缶詰を食べようとしたときなど、自分たちが想定し準備していた以外の事「想定外」のことがでてきて、必ず「○○がない」「○○ができない」(缶詰があけたことがないなど)ということが起こります。


子どもたちが「〇〇を貸してください」「手伝って」「教えて」など言いにきても、スタッフは予め告知していた備品以外は渡さず、自ら持ってきたもので対応するよう促します。節約・工夫の大切さに子どもたちが気付けるようにするためです。大人がなるべく口を出さないことで、子どもたちは自分で工夫し、道具を使わなくてもできる方法や持参している子に借りに行くなどの対応を考え、自分たちの力で解決できるように導きます。


ダンボールハウスづくりが終ったら、21時になった時点で消灯となります。消灯以降に起きている場合は、寝ている人の迷惑にならないよう伝えます。保護者から離れ初めて一人で寝泊まりする子ども、普段とちがう環境で眠れない子どももいますが、スタッフがずっと見守っているので何かあれば助けに入れる環境づくりをします。


限られた環境で工夫する力、協力しあう心を育む


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▲非常食のお米を分け合って食べる様子


 翌朝は6時に起床し、全員で非常食(アルファ米)を準備します。水とお湯、両方のものを一つずつ準備し、調理と並行してダンボールハウスを解体しまとめます。その後、水で作ったごはんとお湯で作ったごはんを子どもたちがスプーンで一口ずつ試食します。持ち物の中に火をつける道具が入っていなかった子は水でしか作れませんが、火を分け合えば、全員があたたかいご飯を食べることができます。それを伝えることで、協力・分かち合いの心を考える機会にします。


7時から保護者に集合してもらい、全員で昨夜の様子の振り返りを行い、会は終了となります。各自、自宅に戻ってから、今回持参したもの以外で「こんなものがあると役に立つ」と感じたものや「絶対に準備しておくべきもの」などを家族で話し合い、リュックに追加し、非常用持ち出し袋としてすぐに持ち出せる場所に常備しておきます。ここまでが「防災ダンボールキャンプ」のゴールです。


必要な備品などを家族で考えフィードバックしてもらうことで、防災を子どもだけではなく家族全体の意識に広げることがポイントです。また、スタッフは子どもたちの困ったことを手伝うのではなく、子ども自身が「組み合わせ」「工夫する」、その余地をあえて残しておき、自ら考え仲間と共に協力して解決できるように導くことが重要です。


参加した子どもたちからは「おうちのふとんて、あったかいね」「起きているときは気にならなかったけど、自分が寝るときになったら、他の子の話し声や光が気になってなれなかった」、保護者からは「阪神大震災の時は私が守ってもらっていたが、今は守る立場となり改めて考えるきっかけになった」「これまでは大人だけで話し合っていたが、子どもも一緒に考えることが大切だと実感した」などの感想がありました。


「防災ダンボールキャンプ」の取り組みは、六甲道児童館のほか地域の児童館でも実施されています。プログラムの詳細は、『児童館等における遊びのプログラムマニュアル』(厚生労働省委託事業『児童館等における「遊びのプログラム」の開発・普及に係る調査研究業務』) 38番に掲載されています。ぜひご覧ください。

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