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識者・応援団からのメッセージ

安道 理さんからのメッセージ

児童相談所から見える子どもと家族の今
「同情」ではなく「共感」を

 

安道 理

安道 理(あんどう さとし) さん

現役の公務員で、児童福祉司。安道理はペンネーム。一般行政職(事務職)として地方公共団体に入庁。いくつかの部署を経て、児童相談所に異動。そこで業務内容の特殊性、危険性、そして、過酷な状況に曝される子どもたちの現実に強い衝撃を受け、人生観が一変する。異動後、ケースワーカーとして必要な面接技能等の研修を受けながら、児童福祉司免許を取得。過酷な現実を目の当たりにする一方で、立ち直っていく家族の感動的な姿にも触れたことで、児童相談所を最も過酷で最も感動的な職場と感じるようになる。その本当の姿を広く伝えることで、児相の職員や、福祉をめざす若者を勇気づけ、さらに悩める親子を児童相談所に導くことに繋がると考える。









 

 児童相談所に勤務した体験をもとに小説を執筆した安道理さん。著書には、児童虐待をはじめ、子どもの非行や発達障害に関する相談など、さまざまなケースにひたむきに取り組む児童相談所職員たちの姿が描かれています。「本を読んだ人が児童相談所を理解し、気軽に相談に来るようになれば、一人でも多くの子どもや家族が救われるのでは?」との思いから筆をとったのだそうです。今回は、児童虐待を取り巻く社会環境や児童相談所が抱える課題、虐待を防ぐために地域でできることなどについて、お話しいただきました。

 

児童相談所での体験を小説に

 私は、一般行政職として県庁で勤務していますが、ある年の人事異動によって児童相談所勤務を命じられました。児童相談所がどんな職場なのかをまったく知らずに行ったものですから、初日に児童虐待事例の写真などを見て、かなりの衝撃を受けました。
 児童相談所には5年間勤務し、また別の部署へと異動になりました。しかし、異動してからも、つらい境遇にある子どもや家族がいることを知ってしまった以上、自分に何かできることはないかと考えていました。
 そんなある日、久しぶりに児童相談所を訪れ、同僚たちとさまざまな話をしていたとき、「最近は福祉を志す若者でも児童相談所は敬遠する傾向にある」「児童相談所の本当の姿 が世の中に知られていないから、子育てに悩んでいる人が気軽に相談に来られないのではないか」などの話題が出ました。「児童相談所のことを正しく描いた小説でもあれば違うんだろうなあ」という意見が出た際、児相時代に私がお世話になった上司が、「裁判所に長い文書をいくつも提出していたあなたなら、小説だって書けるんじゃない?」と、唐突に言い出したんです。すると、ほかの職員たちも「文章書くの、得意でしょ!」「小説を読んで、悩んでいる人が相談に来るかもしれないよ!」などと同調しはじめました。彼らの話を聞くうちに、自分にできる「何か」は小説を書くことかもしれないと思うようになりました。
 『走れ!児童相談所』は、児童相談所が舞台になっていますが、実際にあった話はいっさい書いていません。すべて私の創作です。ペンネームを使っているのは、当時私が担当した相談者が、自分が題材にされたのではないかと不安に感じないようにと考えたからです。

同情ではなく共感することが大事

 児童相談所に勤務していたとき、福祉専門職の人たちから教えられ、もっとも大切にしていたことは、相談者の心に寄り添い、共感するということでした。同情するのではなく、その人が育ってきた環境や、今置かれている立場をできるだけ理解するよう努力すること。そのうえで、どうすれば今より少しでも良い方向に進むことができるのかを考え、さまざまな関係機関と連携し、相談者が負担なく前に踏み出せるよう、一緒に取り組むという姿勢です。
 児童相談所が抱える虐待ケースは年々増え続ける一方で、マンパワー不足が大きな課題となっています。では、事務職をどんどん児童相談所に送り込んで、不足を補えばよいのかというと、そうではありません。この仕事には幅広い専門性が必要です。虐待対応に追われて沸騰状態にある今の児童相談所に、事務職を一人前のケースワーカーに育て上げる余裕はないのです。福祉専門職の人材を増やし、専門性を落とさずにマンパワーを充実させることが重要だと思います。ケースワーカー一人ひとりが抱える虐待ケース数を減らし、従来児童相談所がおこなっていた熱いケースワークができるように体制を強化することが必要です。そうでなければ、児童相談所が福祉の専門機関としての体制を維持することは一層難しくなってしまうのではないでしょうか。

 

(中略・後略:本文は掲載誌 情報誌「じどうかん」2016冬号をご覧ください)

 

-著書のご紹介-

プレゼント著書『走れ!児童相談所

 

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