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識者・応援団からのメッセージ

渡部 陽一さんからのメッセージ

世界中の人々と出会う中で学んだ、
たくさんのこと

 

渡部 陽一(わたなべ よういち)さん

静岡県富士市生まれ。学生時代から世界の紛争地域の取材を続け、イラク戦争では米軍従軍(EMBED)取材を経験。これまでの主な取材地はイラク戦争のほか、ルワンダ内戦、コソボ紛争、チェチェン紛争、ソマリア内戦、アフガニスタン紛争、コロンビア左翼ゲリラ解放戦線、スーダン、ダルフール紛争、パレスティナ紛争など。テレビやラジオなどのメディアにも多数出演し、あたたかみのある語り口で人気を博している。 2012年2月には、子どもたちに戦場カメラマンという仕事や、戦地のいまを伝える『ぼくは戦場カメラマン』(角川書店)を上梓。他の著書に、『世界は危険で面白い!』(産經新聞出版)、『報道されなかったイラクと人々』(共著、新風舎)、写真集『MOTHER-TOUCH』(辰巳出版) など。

 

 戦場カメラマンとして世界中の紛争地に赴き、取材を重ねる渡部陽一さん。戦場カメラマンとして活動する約19年間で取材した国は130か国超。 激しい戦闘が続く最前線を訪ね、現地の人々とふれあいながら生の声を取材し、メディアを通じて伝える日々を送っています。戦場カメラマンとなったきっかけや、戦地で感じたこと、子どもたちへのメッセージをお話しいただきました。

きっかけは、ピグミー族への思い

 大学の講義で学んだピグミー族に強い興味を覚え、アフリカのザイール(現・コンゴ民主共和国)へ向かいました。

 ヒッチハイクで進んでいたある日、森から銃を抱えた10数人の少年が現れました。彼らは少年ゲリラ兵でした。ルワンダ内戦がザイールにも拡大していたのを知らぬまま、私は旅していたのです。少年兵に殴られ、すべての荷物が奪われました。ただ幸運なことに、現金を差し出したため何とか殺されずにすみました。

 少年兵に襲われた恐怖と怒り、ピグミー族に会えなかった失意に包まれて帰国し、家族や友人にこの経験を話しましたが理解してもらえません。「言葉では伝えきれない。では、どう伝えればよいのか」と考えた時に思い浮かんだのが写真です。

 私の父の趣味がカメラで、私もカメラには親しんでいました。現地に行って撮影し、写真の力で何かを伝えよう、と戦場カメラマンになることを決意したのです。

戦地の日常を伝えたい

  「渡部さんの写真は、戦地で暮らす子どもや家族のものが多いですね」と言われます。私が子どもや家族を撮るのは、戦争の一番の犠牲者である子どもの声を多くの人に届けたいから。そして戦地で暮らす人の日常を伝えたいからです。生活に密着し、生の声や息づかいをとらえるのは、私の取材スタンスでもあるのです。

 子どもを授かってから、最前線で暮らす家族の日常をとらえたいという思いがますます強まりました。紛争地で自分の子と同じ年頃の子に出会うと、自然と「どのような子育てをしているのだろう」と興味が湧いてきます。戦場では大家族がひとつ屋根の下で暮らし、食料や服を分け合い、家族の血を絶やさぬよう助け合って子どもを育んでいる。核家族化が進む日本ではなかなか大家族で子育てとはいきませんが、子を育てる喜びや大変さは日本も戦場も変わらないと感じます。

 ところで、皆さんは、戦地で暮らす人にどんなイメージをお持ちですか。「かわいそう」「つらそう」と答える方が大半だと思います。確かに、戦地で暮らす人たちは常に死と背中合わせの状況にあります。でも、家族で食事したり、ときには現地の児童館みたいな所で上映される日本のアニメを見たり、笑顔を浮かべる楽しい時はあるのです。つらい戦地でも、私たちと同じような日常があるのです。

「ハロー」の精神で、世界に飛び出そう

  戦場カメラマンとして最前線に立つと、自分の目の前で世界史がギシギシ動くような感覚を味わいます。つい「もっと奥へ」という気持ちになりがちですが、取材を欲張らず、「危機管理第一、取材が第二」「一歩引く勇気」が私の取材の柱です。現地に到着した途端カメラを没収され、何も撮影せぬまま帰国したこともありました。不測の事態にあったら一度仕切り直す。そのことで気持ちや身体が浄化され、経験値になると思うのです。もし死んでしまったら、もう二度と世界を伝えられなくなる。だから「生きて帰ること」が一番大切だと考えています。

 世界中を飛び回るうちに、言葉も文化も風習も異なる国の多くの人と友達になり、貴重な経験や教訓を得ることができました。皆さんにも、ぜひ、国境を越えて世界中の人々と出会ってほしい。(もちろん安全最優先に、です。)「英語が話せないから」なんて心配はいりません。胸を張って堂々と「ハロー」と笑顔で声をかければ、喜んで仲間に迎えてくれるはず。世界中の人たちが、日本のことを知りたがっているのです。笑顔と「ハロー」の精神で、どんどん世界へ飛び出してほしい、そう私は願っています。


(情報誌「じどうかん」2012春号より一部抜粋)


ご紹介
 渡部さんが子どもたちに語りかけるように書いた著書『ぼくは戦場カメラマン』(角川つばさ文庫)。



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