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識者・応援団からのメッセージ

高橋 和さんからのメッセージ

将棋が、負けを認める潔さ、

相手への感謝の気持ちを育む

 

高橋和(たかはし やまと)さん

女流棋士。

1976年、神奈川県藤沢市生まれ。父と兄の影響で、小学1年生から将棋を始める。佐伯昌優八段門下で研鑽を積み、87年に女流育成会に入会。91年4月、中学3年生で女流プロ棋士デビュー。94年、女流初段となる。2000年に女流ニ段に昇進。A級在位通算7期。03年、元『将棋世界』編集長の作家・大崎善生氏と結婚。05年2月、現役引退。テレビタレントとしての出演も多数。09年8月には将棋の駒を使ったゲーム絵本『ぴょんぴょんしょうぎ』を発表。著書は『女流棋士』(講談社文庫)など多数。
http://ameblo.jp/takahashi-yamato/

子ども時代に味わった忘れられない悔しさ

 私がやっている将棋は、勝負の世界です。一時期、世の中で「ゆとり教育」と称して、競わせることをやめようという風潮がありましたが、私はこれに違和感を覚えました。子どものみならず、もともと人間には闘争本能があり、競争して上を目指そうという気持ちがあると思います。だからこそ、負けたときに心から悔しがったり、悲しみを感じる経験を積むことが大切ではないかと感じたのです。

 私も好きですが、最近の子どもたちはテレビゲームが好きですよね。テレビゲームってゲームオーバーになっても、リセットボタンを押せば全部がクリアになりますし、同時に心もリセットできてしまうんです。でも、人間対人間で将棋盤を挟んで指した将棋の場合は、「勝って嬉しい」とか「負けて悔しい」という思いがずっと心に残る。私自身、いまだに小学生のとき、昇級の大一番に負けてしまい、涙が出ないように上を向いて歩いて帰ったことを鮮明に覚えています。やはり、そうした記憶に残る経験をたくさん積むことが、子ども時代には大切ではないでしょうか。そのひとつのツールとして、将棋は非常に有効ではないかと考えています。  将棋って面白いもので、一局指すと相手の性格が見えてくるんです。それは大人でも、子どもでも。私は教室や児童館で子どもに将棋を教えていますが、積極的な子もいれば消極的な子、勝負に興味の湧かない子など、いろんな子どもたちが来ています。その中で長所を上手に引き出してあげたいと考えています。

 子どもの成長って、本当に早いですから、教えるのはとても楽しいです。前回と今回では「え!?」ってびっくりするくらいに上達していたり。それが楽しみのひとつです。一から教えていた子が大会で優勝したときなどは、自分のことのように嬉しいです。

「お願いします」「負けました」の不思議

 将棋は、始める前に「お願いします」と言い合うんです。子どもたちには、「相手に教えていただく、感謝の気持ちを常に持ちなさい。そのために『お願いします』って言うんだよ」と説明しています。たとえば先生と将棋を指すときでも、先生も相手に「お願いします」と言う。それは「君に教えてもらう気持ちがあるからで、相手を敬う気持ちを持ちましょう」と話をするようにしています。

 将棋は勝ったときに「勝ちました」とは言いません。負けた者が「負けました」と言うだけなんです。ほかのゲームやスポーツで、敗者が「負けました」って言うものはほとんどない。だいたい点数で決まったり、審判がいたりしますから、将棋ほどはっきり言う勝負事はないんです。

 やっぱり、負けたときに悔しくて何も言えない子もいて「負けたら何て言うんだっけ?」と私が促すと、イジイジしながらも「……負けました」って。可愛いですよね。それを繰り返していくと、自然に「負けました」と言えるようになります。当然、勝った子は、最初はすごく喜びます。でも、どんどん勝負を重ねていくと、負けた人の前で喜ばなくなるんです。それは、自分が負けたときにどれだけ辛いかを自分自身が経験してわかっているから。相手に対して気配りができるようになってくるんです。そういう経験は、子どもには大事なことじゃないかと思います。

子育てをして気づいた「曖昧なこと」の大切さ

 将棋は、「勝ち」と「負け」しかないんですね。ですから私の価値観判断というのは、良いか悪いか、黒か白かで判断していたことが多かったんです。でも育児をしていると白黒だけじゃない、曖昧にしておいた方がいいこともたくさん出てくるんです。世の中ってグレーゾーンの方が多いんだと思いました。たとえば愛情って、勝ち負けではないじゃないですか。そういうものが世の中の大半を占めていることに子育てを始めてから気づいたんです。

 逆に子どもたちには、曖昧ではない世界があることをしっかり分かって欲しいんです。勝つことの喜びと同時に、負けを認める潔さを知って欲しい。こういった思いからボードゲーム絵本『ぴょんぴょんしょうぎ』を作成しました。私自身も、将棋の世界に入ったきっかけは、回り将棋や将棋崩しなどの遊びでした。そこから少しずつ、「本当はね、この駒を使うと将棋というのができるんだよ」というように将棋の駒の動かし方を伝えていく。そんなきっかけに『ぴょんぴょんしょうぎ』がなればいいなって思っています。

 最近では児童館で将棋を教える機会が増えてきました。以前、将棋好きの館長さんがいらっしゃる児童館からお声をかけてもらったのですが、その児童館では高校生が小学生の面倒をみていたんです。こういった、年齢を越えた縦のつながりって、児童館ならではですよね。私自身、将棋を始めた子どもの頃は、道場に同年代がいない代わりに、おじいちゃん、おばあちゃんに可愛がってもらいました。そういった地域のつながりを作る役割を、児童館は担っていると思います。将棋は「つながる」道具でもあります。将来、児童館同士で将棋の大会ができたら素敵ですね。

 

ぴょんぴょんしょうぎかえる将棋のルールで遊びボードゲーム絵本『ぴょんぴょんしょうぎ』。子どもへの将棋普及に尽力する高橋和さんの思いがつまった一冊です。

 


(情報誌「じどうかん」2009冬号より)

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